「暗黒星春」 
作者  J

2006-04-14

 

 




今宵、蒼光りする冷たき月とおびただしい星々が、
夜の闇と融和し、それは人々に恍惚を催させる魔力を持っていた。

夜の闇に沈んだ、決して輝くことはできない唯一の星、暗黒星。
それは、こんな奇跡的に流麗な今宵でさえ、誰の目にも映らない。

――暗黒星は、黒布を身にまとった猛々しい美神に鬱屈した恋をした。


今宵、醜い陰気な少女は、ひ弱い傷付いた女を支配する。
――それは、甘美、放恣、哀切たる宵であった。

 




女は愚かな少女をおずおずと受け入れ、少女のいざないのままに動いた。
服の中を虫が這うように、冷ややかな汗が胸元を伝った。

女が長年信じた"純粋な天使"を裏切る事となったのは、その瞬間、
それよりも"愚かな悪魔"の方が美しいと、迂闊にも思ったからである。

恐怖と苦痛と情欲の板挟みの女は、肉の快楽を求めることに専念した。

夜の闇が窓辺から差し込み、女の表情に影を落とす。
――沈痛な面持ちの女の瞳は、憂いを帯びて一層陰鬱に輝いた。

 

 




夜の闇に沈んだ少女は、女の重苦しい潤んだ瞳に欲情する。
少女は女のなだらかな百合の丘に舌を這わせ、幾重にも熱い接吻を押し当てた。

純粋な天使よ、健康な天使よ、見るがいい!

――愚かな悪魔は崇高な天使に復讐をする。

少女は呪いの言葉を吐き、目前の褒美を味わい、肉に埋もれて窒息する。

 

 



女が内包する輝く宝石は、そのすべてが純粋な天使に捧げられたものであると、
愚かな少女は気付いていたので、少女は女の闇のみを見ることで自らを保った。

――そんなものは見たくはない。

少女は、女の内包する美しい宝石を、苛立ちながら憎しみを込めてばらまいた。
そして、女の瞳はみるみると鈍く灰色に染まる。

――こんなものも見たくはない。

いつしか少女は、哀し気な女の瞳を見ることに苦痛と快楽を覚えた。
苦痛と快楽の拮抗は、少女をはなはだ動揺させた。





















そんな哀しい瞳をしないで……。
それでも、私は……。


少女は忽ちその場から立ち去った。
外に出ると空一面は薄明り、小鳥の囀りが騒がしい。黎明だった。

――暗黒星、暗黒星。

それは名が示す如く、何処までいっても輝くことはない、暗黒の星。


愚かな悪魔は声を押し殺し、その場で泣き崩れた。

 



<完>

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