「トモミー」
作者: にーとさん




それに気付いた瞬間、ミーヤは無我夢中で叫んだ。

「トモエちゃん、危ない!!」

離れたところで談笑していたトモエが、緑髪を揺らし、何事?と振り返る。

――ドゴっ!

その顔に、バレーボールがめり込んだ。

「ぶ・・・!」

らしからぬ声をあげ、トモエがひっくりかえる。
まるでスローモーションのよう――というか、もはやギャグだった。
トモエと話していた少女も、そしてミーヤも、固まってしまう。
誰も動けないし、声を発しなかった・・・トモエは、話したくても話せなかったのだが。
するとそこへ、沈黙を破ってパタパタと足音が2つ駆けてきたかと思うと、

「アリカちゃん、もぅ、強く打ちすぎだよー」
「てへへ。ごめんね、エルスちゃん」
「あ、ミーヤちゃん。今、こっちにボールが――」
「ボール・・・・・はっ!とと、トモエちゃんっ、しっかりして――!!」

ミーヤの悲鳴をきっかけに、静かだった中庭は、一瞬にして騒然となった。


*

「トモエちゃん、大丈夫かなぁ・・・」

心配そうに呟き、ミーヤが前を覗き込む。
そこには、シーツに沈みこむようにして、ぐっすりと眠るトモエの姿があった。
あの後、みなで意識のないトモエを保健室に運び、ベッドに寝かせてから、ミーヤはそのそばにずっと付き添っていた。

「じゃあお説教が終わったらまた来るね・・・うー、やだよぉ」
「トモエちゃんのことお願いね、ミーヤちゃん。ヨウコ先生、ちょうど留守みたいだから・・・ナノマシンもあるし、多分、大事にはならないと思うのだけど」
「ごめん、私どうしても抜けれない用事があってー」

三者三様のことを言いながら(最後のはどう考えても言い訳っぽいが)、他の面々は保健室を出て行ったので、今はトモエとミーヤの2人だけである。

エルスのいったように、すぐにナノマシンによる修復が始まったので、あれだけの勢いでボールが直撃したにも関わらず、トモエの綺麗な顔には傷一つ残っていなかった。
真っ白な右の頬が少し腫れてるかな、ぐらいである。それもほんと、じーっと熱い眼差しで見つめないとわからないぐらいの微かなもので――気付いたミーヤは、それだけ熱く見つめていたということであるが、そのことはまぁ、このさい置いておくことにする。
この分だと、多分あと30分もすれば、トモエは目を覚ますだろう。

「・・・こうやって見ると・・・・・トモエちゃんって、やっぱ綺麗だよね・・・」

頬を薄く染め、ミーヤは誰にともなく、感心したようにぽつりともらした。
傍らの椅子に座り、トモエの顔をずっと眺めていて、今さらだが再認する。
トモエは、本当に綺麗だった。
布団に広がる、独特の型をしたさらさらの緑髪も、長い睫毛も、少しだけ赤みを帯びた頬も。
全部が全部綺麗だった――羨ましいぐらいに。
いつもは少し目を合わせるだけで、「・・・何か?」と冷笑が飛んでくるので、慌てて目を逸らしてあまりじっくりと眺めたことがなかったが、こう改めて側で 見ると、トモエは綺麗のかたまりで・・・それこそ、トモエが憧れてやまない、シズルお姉さまにだって引けを取らないほどだと思う。
しかも、眠っているせいか、表情がゆるみ、それがいつもはある硬さのようなものを取って、普段は冷たくさえ見えるトモエの顔を、幾分無邪気で、幼く見せていて・・・・・

「・・・かっわいー」

くすっと笑い、思わずそうこぼすミーヤの耳の奥で、ふいにトモエの声が蘇る。

『このグズ!』(パァンっ)

・・・声というか、罵倒と効果音だった。
だが、そんないつもの、自分を罵って頬を引っ叩く姿と、今の無邪気な寝姿――
そのギャップがひどく新鮮で、ミーヤの鼓動が、トクンとはねる。
顔が赤くなっているのが、自分でもよくわかった。
首を巡らせ、ミーヤはちょっと不審な動きで、キョロキョロと周囲を見回す。

(・・・ちょっとぐらい、いいよね?)

誰もいないのを確認した後、言い訳のように思いながら、ミーヤは指を伸ばした。
頬にかかっていた緑糸に触れ、そっと払って、乱れを直してあげる。
それから――少しだけ迷ったあと、躊躇いがちに、トモエの頬に触れる。
初めて触れたそこは、想像通りにすべらかで、気持ちよかった。
指を離す。

(・・・・・・・・・)

ミーヤの喉が、緊張するように、ごくっと震える。
視線の先には、眠るトモエの白皙の顔の中、白に混じって咲く唯一の紅が――薄く開いた、赤い唇があった。
吸い寄せられたように、ミーヤはじっとそこを見る。目が離せない。
指で触れようと伸ばしかけ、思い直して、指を戻す。

ミーヤの喉が、再び、こくんと鳴る。頬が染まっていく。
やがてミーヤは――

(ん・・・)

無防備なトモエの唇に、そっと口付けた。
本当に、一瞬だけ。触れるだけのキスをして、唇を離す。

と。

「!!」

薄い紫煙の瞳と目が合って、トモエを覗き込んだ姿勢のまま、ミーヤはぴしっと固まった。
いつ起きたのか――いや、いつから起きていたのか。
ミーヤの目に、艶やかに笑うトモエの顔が映っていた。

「何してるのかしら?」

その顔のまま、小さく首を傾げて、トモエが問う。
まるで、本当にわからない、とでもいいたげな顔。そんなはずないのに。

「ぁ・・・その、・・・あの・・・・・私」

ミーヤの身体が、ガタガタと震えだす。
声をなくすミーヤに、トモエが意地悪く口元をつり上げ、再度聞く。

「何か唇に触れた気がするのだけど・・・ミーヤさん、知ってまして?」

言いながら、指先でゆっくりと、見せ付けるように自分の唇を辿る。
その動きが、少女とは思えないほど扇情的だった。

「あ、、その、、、・・・ほんとごめ」
「・・・・・これかしら」

呟くトモエの腕が、ミーヤの首筋に絡む。
えっと思う間もなく、そのまま引き寄せられ、唇が重なってくる。

「!ん・・・トモエちゃ――」

思わず反射的に顔を離そうとするも、ぎゅっと巻きついた腕が、それを許してくれない。押さえつけられる。

「・・・ん・・・んん・・・――・・・ふ・・・」

苦しげだったミーヤの顔が、恍惚としたものへとかわっていく。
唇から、甘い吐息がこぼれ、濡れた空気が保健室を支配する。
しばらくして、トモエはミーヤをどんっと突き飛ばした。
唇を袖で拭いながら、冷めた声で言う。

「・・・二度目はないわよ」
「うん・・・」

同じよう、袖で唇を拭いながら、ミーヤはうっとりと返事をした。



*

「・・・え、エルスちゃん、見た!?」
「・・・う、うん」

保健室の前の廊下で、アリカとエルスが、頬を赤くして顔を見合わせた。

「偶然、すごいとこに出くわしちゃったね・・・」

生唾を飲み込みながら、アリカが言う。
エルスが小さく頷く。
ほんと、とんでもないとこに出くわしちゃった――な気分だった。
ミス・マリアにこってりとしぼられた後、アリカと二人、保健室に戻ってきて。
寝ているであろうトモエを起こさないようにと、音と気配を殺して中に入り、カーテンを静かにめくったところ――いきなり目の前では、トモエとミーヤが熱烈なキスを交わしていたのだった。
キスに夢中の二人は気付かなかったので、慌てふためきながら、入った時同様、なんとか気配を殺して出てきたのだが・・・・・・

「やっぱりあれって、・・・そういう意味なのかな?」

恥ずかしそうに、エルスがこぼす。

「そういうって?」
「その・・・二人、付き合ってるというか・・・」

もじもじと指を動かしながら、エルスがテレると、

「あー・・・あのキスは、間違いないね」

アリカが、知ったような顔でうんうんと頷いた。気分はもう、恋愛の達人である。
すると、エルスの顔が、なぜか嬉しそうに輝いた。

「だよね!!」

ちなみに、そう叫ぶエルスの心の中には、黒髪の同級生の姿が浮んでいたりする。
(あの二人がなれたように・・・・・わたしも頑張ろう!)
何を頑張るのかは謎であるが、とりあえず決意を新たにしたエルスだった。
――と。

「あら・・・」

ふいにガラっと、目の前の扉があいた。
トモエが出てくる。そのあとから、なぜか顔を赤くしたミーヤが続く。

「エルスティンさん。それに――アリカさん」

トモエがにっこりと笑う。アリカの名前を呼ぶときに、妙に間があったり、目が暗く光った気がしたのは、気のせいだろうか。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

盛大に固まるアリカとエルス。二人とも口を半開きにして、顔が赤い。

「?どうなさったの?」

トモエが首を傾げる。
エルスがはっと我にかえる。

「あ、・・・その・・・・・トモエちゃん、もう身体の方はいいの?」
「ええ、おかげさまで」
「そ、そだ!ごめんね、トモエちゃん!!あたしのボールのせいで!!」

アリカも我にかえり、大急ぎで頭を下げる。
ケガをさせたのは、自分だった。何をおいても、それをまず謝らなければいけない。

「ふふ、全然いいのよ。気にしないで――」

腸が煮えくり返りそうな気持ちを隠して、トモエがぽんっと、アリカの肩を優しく叩く。
表面は笑顔、黒いことは影でこっそり、がトモエの信条である。と。

「・・・アリカさん、どうしたの?」

なぜか真っ赤になって自分を見上げてくるアリカに、トモエは不可解そうな顔を向けた。
アリカはしばらく、口をぱくぱくと開閉させていたのだが、やがて、

「あ、あたし、ばっちゃから、いろんな世界があるって聞いてるから・・・!!
だからその――トモエちゃん、いいと思うよ!!ミーヤちゃんも!!」

それだけ言って、いきなり駆け出した。

「ちょ・・・どういう意味ですの、アリカさん!」

トモエが止めるのも聞かず、アリカは廊下をものすごい速さで駆けていく。
そのあとを、「待ってアリカちゃん!」と追いかけようとするエルスティンだが、彼女もまたアリカ同様に――というか、

「わ、私も、その・・・すごく羨まし――・・・きゃあ、何言ってるんだろっ!」

アリカ以上に意味不明なことをいって勝手に真っ赤になったかと思うと、

「――頑張って!」

と力強く叫びながら、廊下を駆けていった。



「・・・何よあれ。いろんな世界?頑張って?――ミーヤさん、どういう意味かわかる?」
「さぁ・・・」

廊下に残された二人は、揃って困惑した表情で立ち尽くし、顔を見合わせるのだった。


その後、目が合うたびに赤くなるアリカや、やたらと優しい眼差しで見つめてくるエルスに、困惑したり、不審がったりするトモエとミーヤが真実を知るのは、数ヶ月先のことである。
その時の2人の反応は――まぁ、想像におまかせする。



 


あーもうバカだしエロイ。可愛い。最高。(笑
キス可愛いし二人の鈍感具合ももうもうもう。萌え!萌え!(ひざを叩く
強引なトモエちゃんももうもうもう。ドキ!ドキ!(ムネを叩く
こう周りとのインターアクションがあるとさらにこの二人が輝く気がします。
お前ら幸せにおなり!

ありがとうございました!

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