「ニコル春の妄想特急」


「えっ 僕の演奏会に来てくれるんですか!? ・・・大丈夫なんですか? 折角の休暇なのに、あの。」
 ニコルは口ごもった。
「ああ、その、向こうのスケジュールを確認したら、今回は合わなくてな。家にいても一人だし。誘ってくれてたの思い出したんだ」
「そうですか! だったら演奏会のあとは僕の家に寄って下さい! 母さんにおいしい料理を作ってもらいますから!母は料理が趣味なんです。あ、良かったら、泊まっていってください!」
  まだ幼さの残るふっくらとした頬の表面を桃色にして、ニコルは一気に迫る。
「あ、いやそこまでは、ご迷惑だろうし」
「迷惑なんて! 父も母も喜びます!」
「いや、その」
「是非!」
「あ、ああ」
「嬉しいです!アスラン!」
「ああ?」
 早速家に連絡するといって、ニコルは飛んでいった。
 とても軽やかな足取りで。
「・・・・・・」
 アスランはニコルの去っていったあとを呆然と見つめるしかなかった。
 ここは、プラントの一つにあるザフト基地の兵士食堂。
 昼時で賑わっている。
 そんな中でのやりとりで、いかにニコルが軍人らしからぬはしゃぎようあっても、誰も注目はしなかった。
 二人を除いては。
「随分お熱いことで、アスラン」
「なんだ、今のはっここはもうアカデミーじゃなんだぞ!仲良しごっこは外でやれ!」
「ディアッカ、イザーク! くっ」
 ううっと口元に歪ませて、まずいところを見られたという顔でアスランは二人に背を向けた。
「おいアスラン! 逃げるのか!」
 イザークが、ガタンと立ち上がった。
 アスランの歩みがとまる。そのまま振り返って、ツカツカと歩いてきて二人の前の席に座った。
 アスランは食事を終えていたが、ディアッカとイザークはまだ食事中だった。イザークのトレイにはビーフストロガノフが、ディアッカのトレイにはマーボー豆腐の皿がある。
「ニコルは、俺のことが好きなのかな。」
 アスランはぼそりと切り出した。
「まぁ、そうなんじゃないの。」
 なにを今更という風にディアッカは言った。
「はっなんだそりゃっ」
 イザークはちょっと声を裏返らせて言った。
「でも、俺には婚約者がいるし」
 困った・・・と、アスランはため息をついた。
「ニコルは男だぞ! なわけあるか馬鹿者めっ」
「そうだけどさ、ニコルの俺を見る目がすごくキラキラしててキラキラ・・・・キラ・・・・・」
「?」
「?」
 キラで止まったアスランを怪訝そうに見るディアッカとイザーク。
「おい大丈夫?」
「あ、えーと・・・・うん。それで、なんていうか、その視線で、そうなのかなって思って」
「ラブラブ光線って?」
 にやにや笑って言うディアッカにアスランは頷いた。
「だからニコルは男だって言ってるだろ! それとも、奴は実は女だとかいうのかアスラン、ぇえ?」
「いや、ニコルは男だろ? そりゃあ、確かに女の子みたいに可愛い顔してるけど。毎日更衣室で一緒に着替えてるじゃないか」
 イザークの、ニコルはもしかして女という突飛な発言にアスランはププっと笑う。
「だから、ニコルが、ホモ・・・ゲイじゃないかっていう話をしてるんだろイザーク」
 ディアッカも苦笑した。
「ホッホモだと!」
 イザークの目がかっと開いた。
「な、なんだ?」
「ホモなんて大嫌いだ!」
「でもお前の尊敬するクルーゼ隊長はホモで有名だぜぇ。だから、残念なことにクルーゼ隊の隊長直属の部下は男だけなんだ。パイロットもぜ〜んぶ男。噂じゃあ、成績優秀な女の子もここへの配属希望してたけど、選考で落とされてテストパイロットになったって聞いたぜぇ」
「イザークはゲイが苦手なのか」
「俺はノーマルだ!」
 性差のないコーディネーターの宇宙社会では同性愛者であることで社会的地位を脅かすことはない。ただ個人的な考えとして嫌悪する者はいる。
「イザークも黙ってたら麗しい顔してるからねぇ。けっこう男からももてるのよ」
「ふーん」
「俺はニコルがホモで、お前が好きだなんて、認めんからな!」
「え」
 認めるもなにも、どうしてそんなに突っかかるのか。アスランは怪訝な表情でイザークを見た。いつも、なにかにつけてイザークに突っかかられるのは慣れっこになってしまったが、今回は、微妙にニコルに対してイザークがこだわっている様に見える。こいつそんなにニコルに関心があったのか?とアスランは思った。
(まぁニコルは成績3位だからな。気にしてないフリしてイザークも気になるんだろう)
 アスランは一人で納得した。  
「そうだなぁ、でもニコルが男でよかったよ。俺も一応女の子のほうが好きだし、ニコルが女の子じゃなくて良かった。女の子だったら・・・」
 婚約者がいる身では、他で間違いがあってはいけないという風にアスランは言った。
「お前、ニコルをそんな目でみてたのか!!」
 身を乗り出してイザークはアスランを睨み付けた。
「あ、いや、その」
「アスランはニコルに優しいしねぇ、そういうところで、慕われてるんじゃね?」
「ニコルはお、弟みたいだからな」
「けっお前に弟なんていたのかよ!」
「いや、弟みたいな奴はいたけど、ニコルとはタイプが違うんだが。あいつも可愛い顔してたな」
「真面目に答えんな!」
 バンっとイザークは机を叩いたので、皿のビーフストロガノフがこぼれそうになる。
 それを見てディアッカはまずいなぁと思った。
 何年もイザークの親友をやってきたのである。彼がニコルを内心好きなのも知っていた。
 短気な彼は嫉妬からいまにもアスランに掴み掛かりそうだ。
(アスランに声かけるんじゃなかったよ。まったく!)

 イザークが。
 ニコルのことを、不自然なくらい話題に出さなかったり、関心を示さなかったり、馬鹿にしたりしていたりしていて(成績3位のニコルに向かって臆病者といったり)おかしいとは感じていた。そして、偶然イザークの枕の下からニコルの写真を見つけたとき、ディアッカは何も言わずに戻しておいた(写真は集合写真のもので、イザークとニコルをつないで、他は切り取ってあった)
 ゲイを嫌うイザークは、同性のニコルを好きになってしまったことで、悩んでもいたのだろうとディアッカは思う。

「でもさぁ、もしニコルが女でもさ」
「え?」
「なんだ」
 ディアッカの切り出しに二人は、注目する。
「マゾだったらさぁ、アスランはまず振られるね」
「ええ?」
「マゾヒストはさ、冷たくされて、酷い扱いをうけることが快感なんだよ。つまりアスランの優しさなんてもんはニコルにとっては物足りなさになるわけだ」
「な、なにを根拠に」
「前から思ってたが、あの顔はマゾっ気たっぷりだぜ。ニコルもイザークのところに来れば、たっぷりお仕置きされて良かったのに」
「え」
 その瞬間、三人の脳裏にそれぞれのイメージで裸の女体のニコルがイザークに折檻されるが浮かんだ。
 ディアッカは半笑い、アスランは顔を顰め、イザークは、これ以上ないくらい、赤面していた。普段の肌色は白いので余計異様にみえる。
「うわ、今やらしーこと考えただろ!」
 アスランが呆れたように言った。
「お、お前には関係ない!お前は婚約者がいて困るんだったら、早くニコル振られればいいんだよ!」
 イザークの声は裏返っている。
「は? なんだよそれ!」
 むっとした顔でアスランが言う。
(お、おい、アスランっ)
 ディアッカは内心焦った。折角喧嘩にならないようにと思って話題をずらしていこうとしたのに。
「ニコルがマゾ? それはないね。ニコルはよく言っているんだ。いずれイザークを追い抜いて、2番になるってな!どっちかっていうとMじゃないよニコルは。サドのほうなんじゃないのか?」
「なんだとぉっ」
「え、サド!?」
 ディアッカが反応した。
「ん?」
「はっディアッカはマゾだからな」
 イザークが呆れ口調で言った。
 マゾの気がある。だからこそ、ディアッカはイザークとうまくいっているのかもしれない。
 そして、三人の脳裏にそれぞれのイメージで裸の女体のニコルがディアッカを折檻しているのが浮かんだ。
 この場合ディアッカのイメージがより具体的であった。
(縄で縛られ・・・・大事なところに蝋燭の蝋をたらされ・・・・・そして鞭で、ヒールで、)
 真剣に妄想の世界に入ったディアッカを尻目に、アスランとイザークは渋面だった。
(あっ! そんなことより、ニコルが俺を追い抜くだと!生意気いいやがってアイツ! あとで、あとで、たっぷりイジめて・・・・)
(ニコル・・・・男だとばかり思っていたけど、もしかして、本当に女の子かもしれないぞ。きちんと確かめたわけじゃなし、確かめてみようか)
(ニコルみたいな可愛い奴にいじめられたいかも)


 三人が良からぬ決心を固めている頃ニコルは。
「あ、母さん? 今度の演奏会のあとアスランを家に招待したいんだ。お料理よろしくね。え?なに、もっとたくさん友達呼びなさいって? 腕をふるいたいのはわかるけど〜、うーん,わかったよ。考えてみるね!」


 






(オチなしです。ちょっとアホなのしか書けなくて)