「アスランとニコルとイザークの長い一日」


イザーク×女体化ニコル(アスラン)



1.
アカデミーを卒業後、クルーゼ隊のレッドとして、アスラン、イザーク、ディアッカ、ニコル、ラスティの五人は、期待のエリートとしてザフト基地に集結していた。
 ガンダム奪取作戦。
 彼らは今後、エリート証・赤を着る者としてこの特殊任務につくことが予定されている。
 来る危険な初任務を控え、5人はプラントにある宇宙基地で特殊訓練を受けながら勤務していた。
 
 「最近、イザーク変じゃないか?」
 小さな休憩室。それぞれが自分の趣味の物を持ち込みつつ談笑している。本日アスラン、ニコル、ディアッカ、ラスティの四人は勤務なしの休みだった。休みではないイザークだけがその場にいない。
 そんな時、アスランがぽつりともらしたのだった。
 このメンバーは、アカデミー時代から変わらない面々で、すごく仲がいいとは言わないまでも、全員気心の知れた相手というのは間違いなかった。
 最近イザークの態度が妙に変なのが、他の四人にはわかっていた。
 やたらヒステリックな面があるのは昔から変わらないのだが、時々いきなり黙ってしまったり、赤面したり、語尾が弱くなったりするのだ。
「最近変なんだよねアイツ」
 イザークの一番の仲のいい親友ともいえるディアッカは頷いた。
「・・・僕が思うに、赤になって正式にクルーゼ隊に配属になってからだと思います!」
 ニコルもすかさず言う。
「なに? イザークの情緒が不安定でオカシイって話?」
「いえ、情緒不安定とまでは、」
 ラスティはあまり興味がないように言ったがニコルが否定する。
「アスランでさえ気にするんだから、けっこう重症なのかな」
「ディアッカ・・・心配ですね。何か悩み事があるとか。実は僕この前イザークに聞いてみたんです。でも、すごく焦った様子で逃げていってしまったんです」
「へぇ〜・・・」
「やっぱり僕じゃ力不足みたいですね。親友のあなたに頼みます」
「あ、いや、多分、それは」
 ため息をつくニコルにディアッカが立ち上がって近づく。
「ニコル、実は」
「はい?」
 声を潜めているものの狭い休憩室のソファで、アスランもラスティもそれぞれ自分のことをしながらも、視線と耳を二人に向ける。

「イザークはきっとニコルのこと好きなんだと思うんだ」

 ディアッカは大きな声で言いはしなかったが、他の二人に聞こえてもいい風だった。
「え、え? えええ?」
 ニコルは真っ赤な顔してディアッカを見た。
 しかし、その視線が揺らいで、アスランの方をちらっと見たのをディアッカは見逃さなかった。
「本人に直接聞いたわけじゃないんだけど、あいつの態度みてたらニコルに関していつも変になってるからさ」
「な、な、なんでいきなり、アカデミー時代は、普通でしたよっ」
 ニコルは立ち上がって、部屋の中を行ったりきたりする。
「レッドになってニコルが身近になったからかな、きっと。ニコルやっぱ気付いてなかったよねぇ」
「そ、そんな」
 最近確かに、イザークはニコルの前では挙動不審だった。
 ニコルが思い出すのは赤面してるイザークの顔。肌が白いからすぐ分かる。
「ニコル、付き合ってる男とかいないの?」
 ディアッカが問うた。
「いませんよ! そんな、」
「あれだけ大勢のアカデミーの中で唯一の紅一点だったのに、ニコルに彼氏ができなかったのも不思議なもんだよなー」
 ラスティが能天気に呟いた。
 ニコルたちがいたザフトのアカデミー。
 ニコルはMSパイロット科で唯一の女性の訓練生だった。
 背の高い少年達の中で、色白で小柄なニコルは人気があったけれど、そんな話はなかった。
 なぜならニコルは、ずっとアスランに片思いしていたからだ。
 けれど、それは多分一生叶わない片思い。
 ニコルもそれは承知の上の片思いだ。
 同性愛者のアスランが女のニコルを愛することはない。
 アスランが同性愛者だということが訓練生の中で周知の事実となったのは、彼が婚約者ラクスの写真ではなく、幼馴染の少年の写真を部屋に飾っていたことから発覚した。
 その写真の少年こそ、アスランの幼い日の初恋の君。
「まぁだから、ニコル。イザークが変なのはお前のこと気になって仕方ないからだと思う」
「あ、あの、ディアッカ。それで、ぼ、僕はどうしたら?」
 目を白黒させながらニコルは言った。
 他でもないあのイザークに、というところがニコルを落ち着かせなくする。
「え、別になにも。うーんまぁイザーク付き合ってみるとか? けっこうお似合いだと思うぜ」
 ディアッカが笑顔でニコルの肩を叩いた。
 そして、ニコルの耳元に顔を寄せると、今度は本当にニコルにしか聞こえないように、
「アスランを忘れるいい機会だ」
 と囁いた。
「!?」
 ニコルは返事ができずに固まってしまった。
 確かに男しか愛せないアスランが振り向いてくれることがないことはニコルもわかっている。
 報われないこの恋心を忘れるには新しい恋を探さなくてはと、ニコルも思いはじめていたのだ。
 でも、それがあのイザーク。
 頼もしい仲間、綺麗だけど一番切れやすくて扱いにくい困った人。それ以上に思ったことはなかった。
 それにイザークは同性愛者のアスランをホモ野郎と蔑んでいた。差別する人間は嫌いだ、とニコルは思う。
 イザークに想われていると思うと混乱して頬が熱くなるが、恋ができるとはまた別問題だ。
「もうバカなこと言わないでください!」
 ふいっとディアッカに背を向けてニコルはソファに座ると、イヤホンをかけて手にしていた楽譜でばっと顔を隠した。
 やれやれとディアッカもグラビア雑誌を手に取る。
 ラスティは携帯のメールをいじっている。
 アスランが先ほどから、工具を握る手を止めて呆然としているのを三人は気付かなかった。

2.

(そ、そうかイ、ザークはニコルが好きだったのか・・・・・・・)
 アスランは内心、苦い思いで呟いた。
(てっきり俺に関心があるのかと思ってたのにっ)
 これはアスランの心の叫びだ。
 軍学校時代からのアスランの密かな楽しみはイザークが自分に絡んでくることだった。
 やれ訓練の成績順位がどうとか、チェスの勝負だとかキャンキャンと煩く付きまとってきたイザーク。
 最初はなんだコイツ、と思ったものだがああも構われると情がわくというものである。
 いつもあの真剣な熱いブルーの瞳に見つめら(睨ま)れるだけで、胸がドキドキした。
 イザークがなんでもトップにたちたいタイプなのは一目瞭然だったので、アスランもポーカーフェイスを崩さず頑張ったのだ。 
 常にイザークの前にいなきゃ追いかけてもらえなくなる、と思って。
 なのに、ディアッカはイザークが最近挙動不審なのはニコルが好きだからと言って来た。
(くっ。なんたる衝撃・・・・)
 イザークは普通の男だったのだ。 
(キラの次に、やっと出会えた恋だったのに)
 アスランの中でキラへの恋は、幼い日の綺麗な思い出として胸に大切にしまわれている。
 しかし、思い出だけでは生きていけないのがケンコウな人間だ。
(でも失恋したのか、俺)
「アスラン? どうしたんです?」
「え?」
 ニコルが声をかけてきて、すっかり自分が顔色をなくしてしまっていたことに気付いたアスランはそそくさと工具をしまうと立ち上がった。
「俺ちょっと調べ物があったんだ。じゃあね、ニコル」
「え、ア、アスラン」
 アスランはニコルに力なく微笑むと部屋を休憩室を出て行った。
 しーんと沈黙が続いたが、数秒後
「え、えと。僕も失礼しますっ!」
 楽譜を胸に抱きしめて、ニコルも部屋から出て行った。

「ニコル、アスラン追いかけていったと思う?」
 ラスティがディアッカに問いかけた。
「ああ、そうなんじゃない」
 ディアッカはふっとため息をついた。
「こりゃ、イザークに勝ち目ないんじゃない?」
「奇跡が起きないとダメかねぇ」
「奇跡がおきたら、女のニコルとホモのアスランが先にくっつくよ」
「ラスティ、お前、ほんっと、どーでもいいんだろ?」
 ディアッカはラスティを横目で軽く睨んだ。

3.